1-12『燐美の勇者とナイトウルフの戦い』


紅の国 領内


燐美の勇者一行は、次の目的地を目指して風精の町を出発
院生もこちらで揃えた旅人服に身を包み、
燐美たちと話をしながら歩いている

燐美の勇者「多くの勇者が各国から旅立ってるけど、みんな一直線に魔王の本拠地を
       目指してるわけじゃないんだ」

院生「え、どうしてですか?」

燐美の勇者「勇者は皆それなりの理由があって選び出されるけど、それでも魔王の力には到底およばないんだ…
       ボクたちだってこのまま考えなしに挑んでも、
魔王に触れるどころかその配下にさえ勝てないと思う…」

院生「じゃ、じゃあ…」

麗氷の騎士「そのために、私達は各地を旅しているんだ」

院生「?」

燐美の勇者「あのね、言い伝えでは千年前にも魔王軍の侵攻があったらしいんだけど、
その時には、一度封印に成功したそうなんだ」

麗氷の騎士「そして、その時に使われた力が世界中に残されているという話もね」

院生「力…ですか?」

麗氷の騎士「具体的にどういう形で存在しているかは分からないんだ。
       武器かもしれないし、魔道書とか、なんらかの方法を記載した書物かもしれない。
       とにかく、それらが世界各地に封印されているという文献がいくつか残っいるんだ。
そして、その内のいくつかはすでに他国の勇者により発見されたそうだ。
       力を手に入れた彼らは対魔王軍戦線に合流し、戦っている」

院生「そうなんですか?なら、魔王軍も…」

麗氷の騎士「いや、それでも魔王軍は日に日に押し迫ってきている。
       前線の勇者達や各国の軍隊も奮戦しているが…
       魔王軍は強大すぎて、一つや二つ力を集めただけでは駄目なんだ…」

燐美の勇者「もっと大掛かりに捜索できればいいんだけどね〜…」

麗氷の騎士「どこの国も現在は対魔王軍戦線への派兵と、国を守るだけで手一杯だからな…
       だから私達のような少数のパーティーが各国から出されているんだ」

燐美の勇者「魔王や魔王軍との戦いの他に、各地にある力の捜索もボクらの仕事ってわけ」

院生「その力を見つけられれば、燐美さん達も魔王軍と…?」

麗氷の騎士「いや…ただ見つけるだけでは駄目だ」

院生「え?」

麗氷の騎士「さっきも言った通り、存在するとされている力は何種類もある。
       たとえ見つけ出せたとしても、それが見つけた者の能力に合わなければ意味が無いんだ」

院生「能力…ですか?」

燐美の勇者「そっ。たとえばボクなら剣術と、ちょっと攻撃魔法も使えるかな。
       麗氷は剣と槍が得意だよね」

麗氷の騎士「ああ、それと低位の強化魔法なら使える」

院生「強化魔法?」

麗氷の騎士「一時的に魔法をかけた対象者の能力を…
       たとえば私の場合は攻撃魔法の威力を少し上げることができる」

院生「へ〜」

麗氷の騎士「それで…勇者は各国より選抜されているが、何を得意とし
        どういった能力を秘めているかは、それぞれまったく違うわけだ」

燐美の勇者「だからもし見つけ出せても、自分の特技や能力に合わない物だったら、
       使えないってことになっちゃうんだ」

麗氷の騎士「まぁ、絶対に使えないとは言い切れないが、自身の能力に合わない力では、
       ナマクラも同然だ」

院生「な、なるほど…(ゲームのシステムそのものだ…)」

麗氷の騎士「今、前線で戦っている勇者達はそれを成し得た精鋭たちだ。
       その精鋭たちが押される程の相手…」

麗氷の騎士の表情が少し暗くなる

院生「麗氷さん…?」

麗氷の騎士「私のような若輩者が力になれるのだろうか…」

燐美の勇者「ダメだよ!そんな弱気になっちゃ!」

院生「!」

燐美の勇者「そのためにこうやって修行しながら旅をしてるんじゃない!
       国のみんなのためにも、がんばってボクらも精鋭に加わらなきゃ!」

麗氷の騎士「そうだな…弱気になっている暇などないか」

燐美の勇者「そうだよ!麗氷はそうやって悪いほうに考えちゃうんだから!」

麗氷の騎士「すまない、空気を変にしてしまったな」

院生「い、いえ。そんなこと」

燐美の勇者「さ、行こ!ボクたちも早く戦ってる勇者達に追いつかなきゃね!」

言うと燐美は意気揚々と歩くのを再開した

院生「燐美さん…なんかすごいですね」

麗氷の騎士「ああ、あれに助けられることも多くてね」

先を歩く燐美の勇者を見つめる二人

燐美の勇者「うわっ!?」ドテッ

院生「あ、コケた…」

麗氷の騎士「……」

麗氷の騎士は頭を抱えた


昼過ぎ 自衛隊陣地


陣地の一部に広く場所を確保した所があり
そこにCH-47J輸送ヘリコプターが駐機している

その輸送ヘリコプターの後部ランプでは、
隊員がキャリバー重機関銃を据え付けを行っている
現在、航空自衛隊員と一部の陸上自衛隊員が
本格的な出撃に備えた、輸送ヘリコプターのガンシップ化を行っていた

整備A「…ああくそ、付かねぇぞ?」

隊員J「おい、いつまでかかってんだ?」

整備A「あー、すんません。ここの部品がうまく付いてくれなくて」

隊員J「貸せ、俺がやる」

隊員Jは難儀している整備Aを退かし、据付を行う

整備A「すんませんね」

隊員J「スパナ寄越せ。軸を調整する」

隊員Jはキャリバーの据え付け部を調整
実際にキャリバーを構え、照準に支障が無いかをしらべる

整備A「しっかし、陸上さんは大変そうですね。
こっちに飛ばされて来てから西へ東へ」

隊員J「他人事みたいに言ってんな、一等空士。お前らの食い扶持も確保してんだぞ?」

整備A「わーってます、わーってます。だからせっせと慣れない
     武器据付をやってるわけで」

隊員J「こっちは終わった。俺は搭載弾を持ってくる
お前は向こうを手伝いに行け」

整備A「うっす」

隊員Jは機体から出て、弾薬集積場へと向っていった
整備Aは機体右側のキャビンドアへ歩く

整備B「こんなもんだな。チェックは後で陸自の誰かに頼むか」

そこでは整備Bが40mmてき弾の据付を行っていた

整備A「やー、勘弁だねこりゃ」

整備B「ん?整備Aそっちは終わったか?」

整備A「ええ、だからこっちを手伝うようにと」

隊員B「こっちもてき弾の据え付けは終わったぞ。
    残りは反対側に車載機銃を据え付けるだけだ」

整備Bは機体左側の非常脱出ドアを示しながら言う

整備A「分かりました。しっかし勘弁してほしいですよ。
     あの陸士長やたら神経質で」

整備B「彼は確か普通科だろ?他のヤツが暴れまわってんのに
     ここに残ってるから機嫌が悪いんだろ」

普通科は緊急展開に備えたヘリ要員、および陣地の防衛指導のために、
数名を陣地に残していた

整備A「そんなもんですかねぇ?」

整備B「陸上のことはよく知らん。それよりとっとと終えちまおうぜ」


臨時ヘリポートの側


整備長「そっちもカバーしろ。絶対野ざらしにするな!」

ヘリポートの側では、整備長をはじめとする数名がなにやら作業をしている
そこには、宿営用の天幕が複数、なぜか一直線に並べてあった

整備長「よし、防水チェックだ。完璧に頼むぞ」

整備C「うす」

整備長「やれやれ…」

一曹「空曹長、いいですか?」

作業が一区切りした所に、一曹が現れた

整備長「ああ、一曹さん。そっちは大丈夫か?」

一曹「ヘリから降ろした物資は品目ごとに集積しておきました。そっちは?」

整備長「あとは防水チェックだけだ。しかしよ一曹さん…
     仕方ねぇのは分かるが、整備士としてこいつはよろしくねぇ状態だぜ…」

整備長は連なった天幕の一番端から中を見る
その中に納まっているのはT-2練習機用のジェットエンジンだ
輸送ヘリの本来の任務は、このジェットエンジンをはじめとする機材、物資を
基地まで届けることだった

整備長「心臓同然のこいつをこんな保管の仕方をすんのは、正直目に痛い」

一曹「大変申し訳ない。しかし、我々としては唯一の航空機を
    できる限り最高の状態で使えるようにしておきたいんです」

整備長「分かってるさ。こんなデカブツ積んだままじゃ、燃費がダダ下がりだ。
     安心しな。いつでも最高の状態で駆けつけられるようにしとく」

一曹「恩にきります」

空曹長「何。正直、今の俺たちゃあんたら(陸自)におんぶにだっこの状態だからな」

一曹「それに関しては、自分も今はほとんど部下に頼ってばかりです」

整備長「だったな…悪いな、へんな愚痴聞かせちまって」

一曹「いえ。では自分は失礼します。」

一曹はその場から立ち去った


夕方
月詠湖の王国 野営地


FV操縦手「夕方がったん戦車が通るよ、他所の敷地の中を〜」

FV車長「歌詞勝手に変えてんじゃねぇよ、オイ」

FV砲手「ついでにコレ戦車でもねーし」

FV操縦手「ボキャブラリーだよ、ぼきゃぶらりぃ。ほ〜ら〜、もぉ〜とおちゃくだよぉ〜」

増援部隊が野営地へと到着

装甲戦闘車を先頭に、
施設作業車、砲側弾薬車、中型救急車、大型トラックと
続いて野営地内に入ってくる

テントの側で、ダラけつつそれを眺める隊員C等

隊員D「救急車までこっちに送ってきたのか」

隊員C「何にせよこれで本格的に作業開始だ、あーありがてぇ…」

台詞とは裏腹にウンザリした様子の隊員C
一方で、鍛冶兄妹も家の外に出て、増援の車列を眺めていた

鍛冶兄「…もう、何見ても驚かんぞ俺は…」

鍛冶妹「今日一日で驚き飽きた…」

装甲車や車両は隊員の誘導で、各所に停車していく

FV操縦手「そっと〜停車してあ〜げたくって…」

FV砲手「しつこいわ、名曲が台無しだ」

装甲戦闘車は野営地の一番端に停車

FV車長「FV砲手、車体のチェックを任せるぞ」

FV砲手「あ、了解」

FV車長が車長ハッチから出る
そして車体から地面に降りると、近くまで来ていた補給に対して敬礼した

FV車長「増援部隊、燃料探索隊へ合流します」ビッ

補給「了解。合流を許可する。良く来てくれた、道中は大丈夫だったか?」

FV車長「特に問題はありませんでした、こっちの状況はどんな感じで?」

補給「あー、そうだな。話すことは山程あるんだが…どこから話すか…」

施設A「補給二曹、先に野営地の拡大整備に手を貸してもらったほうが。
     夕暮れも近いです」

補給「それもそうか…よし、各隊の曹に人員の点呼、並びに再編成をするよう伝えてくれ。
    再編成の完了後、各隊ごとに野営地の拡大整備にかかってくれ」

FV車長「了解」


衛隊B「ん〜…!つっかれた〜!」

中型救急車から降りてきた隊員が、大きく伸びをし
肩をぐるぐると回しながら歩いてくる

支援A「よーぉ、衛隊B!」

衛隊B「ども〜」

隊員D「お前と救急車まで送り込んで来たのか?陣地の方はいいのかよ?」

衛隊B「ええ、陣地には衛生長がいますし、衛隊Aさんも戻ってきますからね。
それより、こっちにもある程度の人と機材が必要だろうって」

隊員D「まぁ、こっちもそれなりの規模になるだろうから、必要だとは思うけどよ」

自衛「おい、お前ら全員いるな?」

その場に自衛が現れる

隊員C「ああ、キャンペーン中だから一人多めにいるぜ」

衛隊B「何のキャンペーンですか」

自衛「衛隊Bか。まぁいい、お前も一緒に聞け。
フリーの時間は終わりだ。野営地の範囲がでかくなるから、
    壕を新しく作るぞ」

隊員C「おいおい、せっかく施設作業車まで持って来たんだろ?
     施設の連中にやらせろよ」

自衛「施設の連中は野営地内で手一杯だ。
    外の監視も兼ねて、俺等普通科が新しい壕を作るんだ」

隊員C「やれやれ…」

自衛「野営地の西と東にそれぞれ構築する。俺達は東側だ。
    西側はFV車長達がやってくれる。
    それと昨日の壕はつかわねぇから埋めちまうぞ」

隊員C「じゃあ、そのついでに花の種でも蒔くか?」

支援A「わーぉ、隊員Cは庭師に転職するらしいぜ」

隊員C「ああ、今日一日でファンタジーを堪能したからな。楽勝だよボケ」

自衛「黙らねぇと今夜ぶっ通しで歩哨をさせるぞ。
    衛隊B、お前は衛生から何したらいいか聞け」

衛隊B「分かりました」

自衛「あと、それが終わったら衛生科は、怪我人でもでない限り俺等と一緒に行動だ。
    衛生にも伝えといてくれ」

衛隊B「了解、伝えます」

自衛「よし、かかれ。暗くなると厄介だ」

隊員C「とっとと終わらせようぜ」


紅の国


風精の町を出発後、道中特に問題も無く歩き続けた院生達
現在は木陰の元で休憩をとっていた

麗氷の騎士「大分日が暮れて来たな…」

太陽は後少しで地平線の向こうに沈もうとしていた

燐美の勇者「どうする?今日はこのへんで野宿にしよっか?」

麗氷の騎士「いや、待て。地図によればこの近く、少し進んだ所に草風村という村がある。
       よければそこを尋ねてみるのはどうだろう?」

燐美の勇者「う〜ん村かぁ…」

麗氷の騎士「少し歩くことになるが…」

燐美の勇者「院生さん、大丈夫?」

院生「へ?」

燐美の勇者「たぶん村で休んだほうが体にはいいと思うんだ。
       ただ、これ以上歩くのが辛いのならここで野宿って手もあるけど」

院生「あ、わたしはまだ全然大丈夫です。まだ余裕もありますし」

麗氷の騎士「よし、それなら村を訪ねてみよう」


数十分後

燐美の勇者「あれだね」

しばらく北上した院生達の視界の先に、集落が見えてきた

麗氷の騎士「なんだ…?」

院生「どうしたんですか?」

麗氷の騎士「いや…外枠を妙に頑丈に固めてるな…」

村は柵ではなく、突貫工事だが木板などで城壁のように囲われている

燐美の勇者「まぁ、今のご時勢じゃ珍しいってわけでも…ッ!」

院生「燐美さん?どうし…きゃっ!?」バサッ

次の瞬間、燐美の勇者は唐突に院生を抱え上げると、その場から飛び退いた

バッ!

そして先程まで彼女達がいた場所を何かが通り過ぎた

麗氷の騎士「な!?勇者様!」

燐美の勇者「院生さん、大丈夫?」

院生「は、はい…」

燐美の勇者は院生を降ろすと、飛び掛ってきた物体の方へ目をやる

燐美の勇者「こいつは…!」

ナイトウルフA「グルルル…」

そこにいたのは不気味な紫色の体毛を生やした大きな狼だった

麗氷の騎士「ナイトウルフか!?」

燐美の勇者「院生さん、離れて!」

燐美の勇者はナイトウルフの注意を自分に引き付けつつ、院生を遠ざけさせる

ナイトウルフA「ガゥゥッ!」バッ

ナイトウルフは再び燐美の勇者へと飛び掛って来た

院生「燐美さん!」

ナイトウルフが燐美の勇者の眼前に迫る

燐美の勇者「ッ!」スッ バシュッ

燐美の勇者がわずかに動いたかと思うと、一瞬光線のようなものが走った
そして燐美の勇者に攻撃を加えず、そのまますれ違うナイトウルフ

ドサッ

ナイトウルフは地面へと倒れ、地面に血溜りができてゆく
向き直った燐美の勇者の手には、彼女の剣が握られていた

院生「た、倒したの…?」

麗氷の騎士「勇者様!」

燐美の勇者「分かってる」

気がつけば、あたりには複数のナイトウルフが集まり、院生たちを囲んでいた

院生「あ…」

燐美の勇者「院生さん、大丈夫。麗氷!院生さんを村まで!
       ボクが援護する!」

麗氷の騎士「分かった!院生さん、行くぞ!」グィッ

院生「ひゃっ!」

いつの間にか愛馬に跨っていた麗氷の騎士は、馬上に院生を引き上げた

麗氷の騎士「はぁっ!」

そして掛け声と共に愛馬を走り出させる

ナイトウルフB「グルルッ!」

追いすがろうとするナイトウルフの前に、燐美の勇者が立ちはだかる

燐美の勇者「いかせないよ〜」

ナイトウルフB「ガゥゥッ!」バッ

襲い掛かるナイトウルフに向けて、燐美の勇者は剣を振るう

ナイトウルフB「ギャゥゥ!?」ブシュッ

地を噴出し倒れるナイトウルフ

院生「麗氷さん!燐美さんは!?」

麗氷の騎士「勇者様ならすぐに追いついてくる、大丈夫だ!」

言いながら村の入り口目指して、馬を走らせる麗氷の騎士

麗氷の騎士「もう少し…」

ナイトウルフC「ガゥゥッ!」バッ

院生「ひ!?」

別の方向から回り込んだナイトウルフが、目の前に現れ飛び掛ってきた

麗氷の騎士「どいてもらう!」シュッ バシュッ

ナイトウルフC「ガゥゥ!?」ブシュッ

麗氷の騎士は愛馬を操り攻撃を回避

そしてすれ違いざまにナイトウルフを切り裂いた

麗氷の騎士「しっかりつかまって!」

そのまま速度を落とさずに、村の入り口までたどり着く

麗氷の騎士「おい!誰か、誰かいないか!?」

麗氷の騎士は門の前で愛馬を止め、入り口に向けて大声で呼びかける
その声が届いたらしく、門の側の櫓に一人の男が現れた

村の見張り「な、なんだあんたらは!?」

櫓に出てきた男は、突然現れた彼女達に困惑している様子だった

麗氷の騎士「中に入れてくれ!ナイトウルフに追われている!」

村の見張り「な、何!?」

見張りの表情が強張る

麗氷の騎士「急いでくれ!」

見張りの男「しかし、門を開ければ村にナイトウルフが…
       それにあんたらは何者なんだ!?」

麗氷の騎士「そんな事を言っている場合か!こっちには…」

燐美の勇者「麗氷!焦っちゃダメ!」

院生「!」

後ろから燐美の勇者の声がし、振り返る院生

院生「あ、あれ?」

しかしそこに燐美の勇者の姿はない

院生「燐美さ…え!?」

頭上に気配を感じ、視線を上に向けるとそこには
地上から10m以上も跳躍し、院生達を飛び越える燐美の勇者の姿があった

燐美の勇者「はいゴメンね!」タンッ

村の見張り「お、おわっ!?」

院生「燐美さん…すごい…」

燐美の勇者はそのまま、見張りの立つ櫓のてっぺんへと降り立った

村の見張り「な、なんなんだ!?」

燐美の勇者「驚かせてごめんなさい、ボクたちは魅光の王国の勇者一行です」 
      
困惑する見張りに向けて、燐美の勇者は説明する

村の見張り「ゆ、勇者…!?」

燐美の勇者「突然の事で申し訳ありません。ナイトウルフの群れは仲間を失って怯んでいます。
      今の内にボクの連れ達を村に入れてはもらえませんか?」

村の見張り「本当か…?」

院生「あ…!」

院生は再び後ろを振り向いたが、追って来るナイトウルフの姿は見受けられなかった

村の見張り「わ、分かった!」

あわてて門の内側へと回る見張りの男

やがて門が開き、三人は中へと駆け込んだ


草風村 村長の家


草風村長「そうですか…魅光の国の勇者様御一行とは…」

村に駆け込んだ三人は、村長の家へと案内された

草風村長「お入れするのが遅れて申し訳ない、危険な目に会われていたと言うのに…」

燐美の勇者「いえ、この状況では正しい判断です。こちらこそ突然おしかけて
       驚かせてしまって申し訳ありません」

言うと燐美の勇者は麗氷の騎士のほうを見る

燐美の勇者「麗氷はすぐ熱くなっちゃうんだから、いざと言う時ほど冷静にね?」

麗氷の騎士「面目ない…」

草風村長「まぁ、お怪我などがなくてよかったです」

燐美の勇者「ところで、村中に見張りが立っていたり、村周りが妙に頑丈になのは…」

草風村長「ええ、ナイトウルフへの対策です。村の者総動員でどうにか作り上げたのですが…」

麗氷の騎士「というと、ナイトウルフの出没はやはり…」

草風村長「ええ、異常事態なのです…ほんの二月ほど前から
      急にこの村周辺に出没するようになりまして…」

草風村人A「奴等は夜だけじゃなく昼間も少数のグループが徘徊するから、
       ろくに猟や収穫にも出れないんだ。それに田畑もかなり荒らされてる。
       ただでさえ不安定な情勢で供給が安定しないのに…」

燐美の勇者「…」

草風村長「恥ずかしながら私達の村はこの有様です。
      明け方には出没するナイトウルフも少なくなりますから、
      あなた方は明朝、その隙に出発されるのがいいでしょう。」

燐美の勇者「…あの」

草風村長「はい?」

燐美の勇者「差し出がましいかもしれませんが…
       その件、ボクたちがに任せてもらえませんか!」


自衛隊陣地


太陽が沈む少し前に、派遣小隊は陣地へと帰還した
車列は車両用に設けられた塹壕の切れ目を抜け、
配置された障害物を避けつつ丘を登る

同僚「ん?」

偵察「なんだありゃ?」

一番内側の塹壕を越える時、射撃壕の横に
一枚の木板が立っているのが目に入った

『五森分屯地』

木板には明朝体でそう彫られていた

偵察「分屯地だってよ」

隊員H「よくあんなの作ったな」

車列は陣地内の車両用区画に乗りつけ停車する

隊員G「よぉし、全員降りろ。人員点呼するぞ」

トラックから降車し、整列すて行く隊員
派遣小隊の到着に合わせて、
陣地内の業務用テントから、一曹他数名の隊員が出てくる

隊員A「第一分隊、異常なし!」

隊員G「第二分隊異常なし」

120車長「重迫撃砲中隊、第一分隊異常なし」

隊員E「了解」

点呼の報告を受けると、隊員Eは一曹へと向き直る

隊員E「報告します。派遣小隊、隊員E二曹以下35名。
    1740時、任務完了に伴い帰還いたしました」

一曹「了解。各隊ごとに整備点検を実施」

報告が終わると、隊員Eは再び隊員のほうへ向き直る

隊員E「聞いたな。各隊員は所属ごとに武器、車両の整備点検を実施。
    それと各隊の代表曹は報告を上げるように。かかれ」

点呼が完了し、各員はそれぞれの作業へとかかっていった

一曹「ご苦労だったな二曹。色々不測の事態もあったようだが、よくやってくれた」

隊員E「ええ、それに関してお話すべきことがいくつか」

一曹「分かってる。作業が落ち着いたらでいい、各曹を集めてくれ」

隊員E「分かりました」

一方で武器、車両の整備にかかる隊員達

偵察「だぁー、疲れてんのによ…」

整備用の道具を運ぶ偵察

偵長「よぉ偵察。戻ったか」

その偵察の元に、一人の隊員がオートバイを押しながら近寄ってきた

偵察「偵長」

偵長「どうにも、予想外の大変さだったらしいじゃねぇか」

偵察「ええ、軽ーくお手伝いするだけのはずだったんですがね…
    偵長こそ、オートバイ引っ張り出してどこ行くんです?」

偵長「定時巡回だ。お前らから物騒な知らせが届いたからな、
    陣地の半径10kmを定期的に巡回するようになったんだ」

偵察「成程。あ、そういや陣地と言えば、
    入り口に不思議な看板が出てましたが、あれは?」

偵長「ああ見たか?普通科の本部要員のヤツが作ったんだってよ。
    五森の字は当て字らしいが」

偵察「はーん」

偵長「まぁ、いつまでも陣地のまんまじゃ決まりが悪ぃからな。
   いいんじゃねぇの?
   さてと、俺は巡回に行って来るぜ。
   ガソリン節約っつーから、あんま飛ばせねぇけどよ」

言うと、偵長はオートバイに跨りエンジンを起動

偵長「じゃぁな!」

ブロロロロロ!

オートバイはトーチカの脇を抜け、巡回へと出て行った

本部用業務テント内

作業が一段落し、隊員E等は派遣活動中の一連の出来事を報告した

一曹「なるほどな」

一通りの報告を聞いた一曹はしばし考え込む

隊員E「全体的な状況は見えませんが…我々の想像以上に事態は大きいかもしれません」

隊員G「こいつはもう戦争ですよ」

一曹「だな…五森姫っつたか?その姫さんは、それを見越して
    どうやってでも俺達の力を手にしたいんだろう」

隊員E「彼女は同盟と言っていましたが」

一曹「…状況が不明瞭だ。これじゃ、下手に動けんな」

隊員E「可能ならば国内の町、たとえば木洩れ日の町などへ
    隊員を数名常駐させるというのは?
    その方が情報も早く入ってくるかと」

一曹「そうだな。燃料の方が落ち着いたら、それも考えるか…」

隊員E「それと、例の雲翔の王国、もしくはそれに賛同する勢力が
    他の場所から入り込んでいる可能性もあります。
    念のためにしばらく警戒を厳に」

一曹「それに関しては心配するな。昨日の無線連絡の後に、歩哨は厳にしてある。
    陣地周辺の定時巡回も始めてるしな」

隊員G「さっき偵長が出てったのもそれか」

一曹「明日からもやるべきことは大量にある。
    派遣に参加した者は今日はゆっくり休むようにな」

隊員E「分かりました。では、失礼します」


月詠湖の王国領内
星橋の街より数km南


商人C「暗くなって来ちまったな…」

燐美の勇者一行と別れ、風精の町を出発した商人達は
国境を越え、目的地を目指していた

狼娘「星橋の街に寄らなくてもよかったの?」

商人A「食料や物資はまだ十分にあるから大丈夫だ」

商人B「それに今、星橋の街は出入り時の検閲を厳しくしてるらしいからな」

狼娘「なんで?」

商人B「紅の国が妙な感じだってのは昨日から言ってるだろ?
    こっち側も薄々感づいて、警戒を強めてるんだろう」

商人A「別に私達にやましい事などないが、時間をとられて
    砂道の街での商談に間に合わなくなったら事だ。
    今回は割りとギリギリの行程だからな」

狼娘「それもそっか」

商人C「けど、あんまり長いこと夜道を走るのもあれだぜ?」

商人A「分かってる。もう少し走ったらどこか適当なところで夜を…」

商人B「おい、なんだあれ?」

商人Aの言葉を遮り、商人Bが声を上げる

狼娘「何?」

商人B「前だよ、あの光」

商人Bが進行方向の先を示す
進む先には森が見え、その手前に複数の明かりが漂っているのが見えた

商人A「松明…?他のキャラバンがキャンプでも張ってるのか?」

商人B「それにしては半端な場所だな…」

疑問に思いながらも、その場所に近づくべく、名馬車を進める

狼娘「…違う…あれは…」

ある程度近づいた所で、目を凝らしていた狼娘が呟いた

近づく毎にその情景が鮮明に浮かび上がる
一台の馬車がそこに止まっているが、肝心の馬は地面に倒れている
そして明かりの正体は松明を手にした複数の男達だ
男達は馬車に群がり、積荷や馬車の持ち主であろう人間を引きずり降ろしていた

狼娘「襲われてる!」

商人A「何!?」

それを聞いた商人Aは馬車を停止させた

商人A「野盗か…なんてこった」

商人B「どうするんだ!?」

狼娘「決まってる!」

商人C「だよな!」

そう言うと、狼娘と商人Cは各々の剣を抜き、
馬車から飛び降りて、襲われている馬車へと駆け出した

商人A「お、おい!」

狼娘「二人はここにいて!」

商人B「まったくあいつらは!」

商人C「狼娘、俺は右っ側をやる」

狼娘「ならあたしは左!」

二人は左右に割れ、走る速度を上げる

一方で野盗達は戦利品に夢中で、二人の接近には気づいていない

野盗A「へへ、大量だぜ!」

野盗B「しっかし、乗ってるのは男ばっかじゃねーか」

野盗A「ああ、ここんトコ女が捕まらねぇよな」

野盗C「くっそぉ、今度は女が乗ってそうなヤツ等を襲おう…」

狼娘「はぁっ!」ヒュンッ

ブシュッ!

野盗C「ぜ?」

野盗A「…は?」

その瞬間に、野盗の半身に巨大な裂け目ができ、血が噴出した

野盗C「あ?あ、ぎゃぁぁぁ!?あ…」ドサッ

野盗は悲鳴もわずかにその場に倒れ、絶命した

野盗B「う、うわ!?なんだぁ!?」

狼娘「まず一人!」

駆け抜けざまに一人を切り倒した狼娘は、他の二人に向き直る

野盗A「や、野盗Cが!お前がやったのか?」

狼娘「見ての通り!」

野盗B「て、てめぇぇっ!」バッ

野盗Bは狼娘に向って、怒りに任せて剣を振り下ろそうとする

狼娘「せっ!」シュッ

しかし、それよりも早い速度で、狼娘は剣をはらった

野盗B「は…ぎゃはっ!?」バシュッ

狼娘「大振りすぎ、隙だらけだよっと!」

野盗Bの首から血が噴出す

野盗A「畜生ォ!ふざけんじゃねぇ!」ブンッ

狼娘「おおっとぉ!」フッ

狼娘は野盗Aのなぎ払った一撃をひらりとかわす

狼娘「甘い甘い!」

尻尾を一度ゆらりと揺らし、狼娘は野盗を挑発する

野盗A「馬鹿にしやがってぇ!」

狼娘に切りかかろうとする野盗A

野盗A「げっ!?」ドシュッ

狼娘「おろ?」

しかし、その前に野盗Aは横から首を突かれて絶命した

野盗A「が…」ドサッ

商人C「よっし三人目!」

その突きは商人Cの剣だった

狼娘「ああ、ずるい!」

商人C「遊びすぎなんだよ。お前は二人で俺が三人、俺の勝ちだな」

狼娘「もー」

そんなことを言い合いながらも、二人は馬車のところへと戻る

商人A「二人とも大丈夫か!?」

狼娘「へーきへーき」

商人B「いきなり飛び出して行きやがって…」

商人C「こういう時は、先手必勝だろ?」

商人A「まったく…それで、誰か生き残ってたか?」

商人C「いや、みんな殺されてた。かわいそうにな…」

馬車を振り返りながらそう言う商人C

狼娘「ん?」ピク

その時、狼娘の耳がかすか物音を捉えて反応した

商人C「どうした、狼娘?」

狼娘「いや、何か…!伏せて!」バッ

商人C「わ!」

狼娘は商人Cをつかんで地面に伏せる
次の瞬間、先程までたっていた場所を矢が通り過ぎた
矢は馬車に突き刺さる

商人C「矢!?どこから…!?」

狼娘「見てあれ!」

進行方向の森の方を示す狼娘
森の中から、多数の野盗の仲間と思われる男達が迫っていた
中には弓を持つ者の姿もある

商人C「こいつらの仲間か?くそ!」

商人A「多すぎる…逃げるべきだ」

そう思い、手綱を握りなおそうとした瞬間だった

ドシュッ ブシュッ

ヒヒィィィィ!

馬車を引いている馬が、複数の矢を受けて地面へと倒れてしまう

商人A「しまった!」

商人B「くそっ!あいつら、キャラバンを襲うのに慣れてやがる!」

商人C「来るぞ!」

狼娘「これはやるしかないよ!商人B、強化魔法を!」

商人B「わ、分かった!」

商人Bは短く呼吸を整えると、詠唱を開始
彼の強化魔法は対象者の速度や瞬発力を一時的に上昇させる

狼娘「よし、いくよ!」

商人C「おう!」

二人はその効力を生かすため、会えて敵中に突っ込む

狼娘「でやぁぁぁぁ!」

商人C「はぁぁぁぁ!」

野盗D「あいつらこっちに来やがるぞ?」

野盗E「へへ、かなわねぇとふんで降参しにき…」

ザシュッ!

野盗E「た…?」ブシュゥ

野盗D「は…?」

商人C「せいっ!」

野盗D「な、ぐがッ!?」ドシュッ

一瞬の間に二人の野盗が血を噴出す

野盗E「は、早いぞこいつら!」

狼狽する野盗を尻目に、二人は次々と野盗に切りかかってゆく

野盗F「ぎゃぁぁ!?」バシュッ

狼娘「まだまだ!」

野盗弓兵A「野郎ふざけ…ぐが!?」ドスッ

商人A「当たった!」

野盗の一人が弓を引こうとしたが、
それよりも早く商人Aが放った弓が野盗を仕留める

野盗E「野郎!クソッ!」キンッ キンッ

狼娘「おっとと、それじゃあたしは倒せないよぉ?」

次々と遅い来る野盗たちを見事にあしらってゆく二人

商人A「二人ともなんとかやってるみたいだな…!」

商人B「ああ、だが数が多すぎ…」

ドスッ

商人B「っ!?」

言いかけた商人Bの胸に、突如一本の矢が突き刺さる

商人A「な!?商人B!」

商人B「く…そ…」

その言葉を最後に、馬車の上に倒れる商人B

商人A「商人B!クソッ、どっから!?」

見渡せば、やや遠くに別の弓兵の姿
そして、一部の野盗が馬車の周りへと群がり出していた

野盗E「ぎゃはぁっ!?」ブシュッ

狼娘「やった!」

商人C「ああ、だが次々沸いてくるぞ!」

狼娘「そうだね、隙を見て後退を…え…?」

多数相手に立ち回っていた二人だったが
急遽、瞬発力が目に見えて落ち始める

狼娘「嘘、これって…」

商人Bの詠唱が途絶えたことで、魔法の効果が切れたのだ

狼娘「しょ、商人B!」

商人C「まずい!」

事態を察し、振り返れば
馬車は野数の野盗に囲まれていた

商人A「くっそ!」キンッ

商人Aは剣を握り、馬車の上から群がる野盗たちを払っている

ヒュンッ

商人A「ッ!?がぁ!?」ブシュッ

狼娘「あぁ!?」

しかし群がる野盗たちを裁ききれず、ついに商人Aの体を一本の剣が貫いた

狼娘「商人Aまでぇ!くそぉっ!」

商人C「まずいぜ、囲まれ出した!」

敵中で魔法の恩恵を受けられなくなった二人は、次第に四方を囲まれてゆく

狼娘「ぐ…うわぁぁぁ!」

商人C「な、狼娘!」

だが、狼娘は敵に向けて突進していった

商人C「狼娘、落ち着け!」

制止の声は狼娘の耳には入らず、怒り狂う彼女は剣を振り回す

野盗G「このっ、ぎゃ!?」ブシュッ

野盗H「いい加減おとなしく…ぐはっぁ!」バシュッ

怒りと狼の本能がない交ぜになり、近くの野盗たちを夢中で切り裂く狼娘

狼娘「このぉ!みんな切り殺してやる!!」

しかし、その怒りが判断を鈍らせた

キラッ

狼娘「!」

狼娘に襲い掛かかる一本の斧

狼娘「しまっ!」

回避しようとするも、到底間に合わない

ドンッ ドスッ

狼娘「…え?」

鈍い音がするも、狼娘の体に異変はない

商人C「ぐ…」

狼娘「え…商人C…?」

狼娘は商人Cに突き飛ばされ、
商人Cの背中には大きな斧が突き刺さっている

野盗ボス「おおっと、野郎に刺さったか。まぁいい…」

目の前には斧の主らしき大男
大男が斧を引くと、商人Cの体から鮮血が噴出し
商人Cは地面へと倒れた

狼娘「え…」

野盗ボス「こいつ最後にいいトコでも見せたかったのか?まぁ、無駄死にも同然だがな!」

商人Cの亡骸に向けて言いながら、斧を担ぎ直す野盗のボス

狼娘「う…うわぁぁぁ!」

怒りが最高潮に達した狼娘は、野盗ボスへと切りかかった

狼娘「あああああ!」

野盗ボス「ははは、元気なワンちゃんだ!」

がむしゃらに剣を振り回すが、悲しくも大振りで荒い動きの剣は
簡単にあしらわれてしまう

野盗ボス「よっ!」ヒュッ

ガキィンッ!

狼娘「あ…」

ついに狼娘の剣は、斧によって弾き飛ばされた

野盗ボス「へへへ、おいたはお仕舞いだぜ」

狼娘「く…くそぉぉぉぉぉ!!」バッ

狼娘は八重歯をむき出しにし、野盗ボスに飛び掛った

ドスッ

狼娘「がっ!?」

しかし狼娘の腹部に斧の柄が叩き込まれる

狼娘「が…あ…」

狼娘は脱力し、地面へと突っ伏した

野盗I「ボスさすが!」

野盗のボスをはやし立てつつ、狼娘を囲いだす野盗達

野盗J「この犬っころが!手間かけさせやがって」

野盗ボス「まぁ待て。見てみろ、犬っころだがなかなかの上玉だ
      連れて帰れば楽しめるぜ」

狼娘の髪を掴み、顔を覗き込む野盗達

野盗I「ひさびさの女だぜ!」

野盗J「今夜は楽しめるなぁ!」

野盗たちの声は狼娘の耳にも入っているが、やがて彼女の意識は遠のいてゆく

狼娘「く…そぉ…」

その声を最後に、狼娘は気を失った



草風の村


院生達は民家の一室を貸してもらい
そこで話し合いをしていた

燐美の勇者「聞いた話しをまとめると、ナイトウルフの活動拠点は
       北にある山の麓だね」

広げた地図を示しながら言う燐美の勇者

麗氷の騎士「ナイトウルフには集団で行動する生き物だ。
      まして、こんな人里にまで下りてきて活動しているということは、
      それを統括しているボスがいるはずだ」

院生「それを倒せば…」

燐美の勇者「少なくとも、人里での活動はできなくなるはずだよ」

麗氷の騎士「数もなかなかの物だ。とすると、住処の場所は自然と限られる」

燐美の勇者「明日の朝は山の麓にある洞窟と、その周辺を探したいと思うんだ」

院生「朝ですか?」

麗氷の騎士「ナイトウルフは主に夜間に行動する生き物だ。
      だから、明け方の活動を終えて、奴等の比較的疲労している時間帯を狙うんだ」

院生「成程…」

燐美の勇者「といっても危険な事に代わりはないからね。
       院生さんはここにいて。ボクと麗氷で解決してくるから」

院生「あ、はい…」

麗氷の騎士「そんなに心配そうな顔をしないでくれ。大丈夫だ」

話し合いが終わった後、二人は村人達へ報告に行った

院生「…すごかったな、燐美さんも麗氷さんも…」

院生は椅子に腰掛け、今日のことを思い出していた

院生「すごく強かったし…勇者と騎士か…」

考えていた所で部屋の扉が開き、燐美の勇者へと部屋に戻って来た

燐美の勇者「ただいま〜」

院生「お帰りなさい。あれ、麗氷さんは?」

燐美の勇者「寝る前の鍛錬に行ってる。麗氷の日課なんだ」

院生「すごいですね…」

燐美の勇者「麗氷、真面目だからねー」

言いながら燐美は上着を脱ぎ、三つ編みしていた後ろ髪を解こうとする

燐美の勇者「んー、うまくいかない」

院生「あ、わたしが」

院生は燐美の勇者をベッドに座らせ、燐美の勇者の後ろ髪を解いてゆく

燐美の勇者「あはは、ありがと。いつもは麗氷にやってもらってるんだけどさ」

院生は解いた燐美の勇者の髪を、櫛で梳かしてゆく

院生「…っと?」

梳かしている最中に、櫛の先に紐が引っかかり
燐美の勇者の首から下がる紐に気が付いた

燐美の勇者「ああ、ごめんごめん」

紐は燐美の首から下がる、ペンダントの物だった
燐美の勇者はペンダントをはずす

院生「綺麗なペンダントですね」

ペンダントは銀で形作られ、小さな赤い結晶が付いている

燐美の勇者「お守りなんだ。国をでる時に、ボクのお姉ちゃんが持たせてくれたんだ」

言いながらペンダントを脇へ置く燐美の勇者

院生「燐美さん、お姉さんが?」

燐美の勇者「うん、二つ上のお姉ちゃんが一人ね」

院生「へぇ…」

話を聞きながら、燐美の勇者の髪を梳くのを再開する
そこへ、麗氷の騎士が部屋に戻って来た

燐美の勇者「あ、おかえり〜」

麗氷の騎士「ああ、ただいま…ほう」

院生をまじまじと眺める麗氷の騎士

院生「な、なにか?」

麗氷の騎士「いや、そうしていると、院生さんが勇者様の姉君のようだと思ってな」

院生「へ?」

燐美の勇者「あ、そういえばそうかも。院生さん、お姉ちゃんとなんか雰囲気も似てるし」

院生「そ、そうですか?」

燐美の勇者「えへへ…おねえちゃ〜ん!」ガバッ

院生「ふわっ!?」

髪を梳き終わったタイミングで、燐美の勇者は院生の膝元に転がって見せた

麗氷の騎士「おいおい、院生さん戸惑ってるぞ」

燐美の勇者「えへへ〜」

院生の膝元に顔を埋める燐美の勇者

院生「…ふふ」


月詠湖の王国 鍛冶一家の家


鍛冶兄「…ッ!」ブンッ

家の裏手で、鍛冶兄は自分の斧を振り回している

鍛冶兄「ハッ!」

重たい斧をうまく保持し、一振り一振りを最小限の動作でこなしてゆく

鍛冶兄「だぁぁっ!」

最後の一振りの後、斧を地面へと着く鍛冶兄

鍛冶兄「…くそ…これじゃなぁ…」


屋内

鍛冶妹「ふぁぁ…」

鍛冶妹は夜中にあくびをしながら居間に下りてくる

ガチャ

鍛冶兄「はぁぁ…」

そこで裏口から入ってきた鍛冶兄と出くわした

鍛冶妹「あれ?兄貴まだ起きてたの?」

鍛冶兄「ああ…ちょっと体を動かしてた」

鍛冶妹「なんでまたこんな時間に?毎朝やってるのにさ?」

鍛冶兄「…あんなんを見ちまったからな…」

鍛冶兄は斧を立て掛けると、近くの椅子へと腰掛ける

鍛冶兄「あんな力がこの世にあるとはな…」

鍛冶妹「すごかったよね〜…ホント何者なんだろ?
     今日、新しく増えた中には女の子もいたけど」

鍛冶兄「…非力だった」

鍛冶妹「兄貴?」

鍛冶兄「…俺もそれなりに鍛えてたし、戦えるつもりでいた…
     けど今日、彼らの前ではお荷物同然だった…!」

鍛冶妹「そりゃあ…しょうがないって。あんな分けわかんない人たちと比較してもさ。
     それに人によって力なんて違ってくるんだから」

鍛冶兄「お前は魔法が使えるからいいかもしれない。
     でも、俺にはこれしかないんだ!」

鍛冶妹「兄貴…」

鍛冶兄「…すまん、お前に当たるなんてどうかしてるな…」

鍛冶兄は斧を片付けに、隣の部屋へと入っていった

鍛冶妹「真面目なんだから…」


翌朝早朝 草風の村


燐美の勇者と麗氷の騎士は、ナイトウルフの住処とおぼしき地点に向けて出発
院生は民家で二人の帰りを待つ

院生「二人とも…大丈夫だよね?」

自分に言い聞かせるように言った院生

院生「…あれ?」

院生ふと、扉の元に何かが落ちているのに気づいた

院生「え、これ…?」

扉に近づき、それを拾い上げる院生
床に落ちていたのは、燐美のペンダントだった

院生「なんで?燐美さん、朝付けていったはずなのに…」

戸惑いつつもペンダントを観察する院生

院生「あ!…紐が切れてる…」

紐は一箇所が弱くなっていたのだろう、そこで切れてしまっていた

院生「燐美さんが帰ってきたら渡さなきゃ…!?」

瞬間、院生をひどく不吉な感覚が襲った

院生「…何…?この嫌な感じ…?」

院生は握り締めたペンダントを不安な目で見つめた


燐美の勇者達は村から少し行ったところの
山の麓の洞窟まで来ていた

燐美の勇者「ここだね…」

麗氷の騎士「ああ」

洞窟内を覗き込む二人
続いて周辺を見渡すが、ナイトウルフの姿はない

燐美の勇者「よし、行こう!」

二人は洞窟内へと踏み入った
周囲を警戒しつつ進むが、ナイトウルフとの接触は無い

麗氷の騎士「不気味なくらい静かだ…本当にここにいると思うか?」

燐美の勇者「さあね、ここじゃなきゃ他のところを…ッ!」

言いかけた所で、燐美は暗闇からの気配を感じた

ナイトウルフD「ガゥゥ!」バッ

暗闇から突如襲い掛かかるナイトウルフ

燐美の勇者「やぁっ!」バッ

ナイトウルフD「ギャォッ!?」ブシュッ

だが、燐美の勇者の反応は早く、ナイトウルフを切り裂いた

ナイトウルフE「ガゥッ!」

間髪入れずに後方から別のナイトウルフが襲い掛かる

麗氷の騎士「はっ!」

ナイトウルフE「ギャゥ!」バシュッ

襲い掛かってきたナイトウルフを撃退し、周囲を見回す二人

燐美の勇者「はぁ…どうやらこの洞窟で間違いないみたい」

麗氷の騎士「そうだな…奥へ急ごう!」

二人は洞窟の奥を目指して走り出す


二人は洞窟内をさらに進む
途中、数匹のナイトウルフの攻撃を受けたが
これらをすべて撃退し、洞窟の奥へとたどり着いた

燐美の勇者「…いた」

洞窟の奥には大きな空間があった
覗き込んでみると、そこには他のナイトウルフの数倍はある
巨大なナイトウルフが居座っていた
足音を立てないよう、ゆっくりと近づく二人

麗氷の騎士「こいつが親玉か、これと比べると虎も子猫だな…」

燐美の勇者「眠ってるのかな?」

ボスと思わしきなナイトウルフは、横になり目を瞑っている

ボスウルフ「…」バチッ

しかし、次の瞬間その目がゆっくりと開いた

燐美の勇者「!」

開かれた目は即座に二人を発見する
しかし、ボスウルフは二人を見つけても慌てることはなく
のっそりと起き上がった

麗氷の騎士「ッ!」

燐美の勇者「…」

ボスウルフに対して身構える二人
ボスウルフは起き上がると大きく伸びをする、そして

ボスウルフ「グォォォォン!!」ゴォォ

燐美の勇者「うわっ!」

麗氷の騎士「くっ!」

二人に向けて吼えたけた
洞窟内を反響し、咆哮は二人へと襲い掛かる
そしてボスウルフは、ゆっくりと二人に向って歩き出した

麗氷の騎士「来るぞ!」

燐美の勇者「麗氷、援護お願い!」ダッ

言うと燐美の勇者はボスウルフ向けて走り出す

燐美の勇者「はぁッ!」ダッ

ある程度接近したところで、地面を蹴り洞窟の天井ギリギリまで跳躍した

燐美の勇者「でやぁぁぁぁッ!」

そして燐美の勇者は、上からボスウルフ向けて切りかかる

シュッ

燐美の勇者「っ!」

しかし剣が振り下ろされる直前に、ボスウルフは横へ跳躍し
それを回避した

燐美の勇者「くっ!」ズザッ

剣撃は空振りに終わり、燐美の勇者は地面に着地

燐美の勇者「まだまだっ!」

着地と同時に地面を蹴り、逃げたボスウルフを追う

燐美の勇者「はぁぁッ!」

再びの攻撃を仕掛ける燐美の勇者

バシュッ

しかしまたしても回避される攻撃

ボスウルフ「グォォ!」ダッ

燐美の勇者「まずっ!」

しかもボスウルフは壁を蹴り反転、逆に燐美の勇者に襲い掛かってきた

燐美の勇者「やぁぁ!」ガッ

燐美の勇者は地面を蹴って跳躍

ドゴォッ!

次の瞬間、先程までいた場所に、ボスウルフの突進が襲い掛かった

燐美の勇者「あぶなかったー!」

ボスウルフ「グォォッ!」

逃げた燐美の勇者に、再び狙いを定めようとするボスウルフ

麗氷の騎士「隙あり!」

その隙を突き、今度は、麗氷の騎士がボスウルフに切りかかった

ボスウルフ「ッ!ガゥッ!」バッ

麗氷の騎士「なっ!」

しかしギリギリのところで、攻撃は回避されてしまった

麗氷の騎士「見かけの割りになんて速さだ!くそ、もう一度!」

追撃を仕掛けようとする麗氷の騎士

燐美の勇者「麗氷、上!」

麗氷の騎士「!?」

上に目をやれば、麗氷の騎士の直上から

別のナイトウルフが襲い掛かろうとしていた

燐美の勇者「やぁぁッ!」

しかし、その攻撃が届く前に、燐美の勇者がナイトウルフを切り捨てた

麗氷の騎士「すまない、勇者様!」

燐美の勇者「ううん全然!それより…!」

ナイトウルフの群れ「グルル…」「ガゥゥ!」「ガルルッ…!」

見れば、辺りには複数のナイトウルフが集まっていた

燐美の勇者「途中で結構倒したと思ったのにな…!」

麗氷の騎士「コイツらは私が引き受ける!勇者様はボスを!」

燐美の勇者「わかった…!」

早めに決着を着けるべく、燐美の勇者は再びボスウルフへと向ってゆく

ナイトウルフF「グルル!」

燐美の勇者「わッ!」

だが、ボスウルフへ向おうとする燐美の勇者に、別のナイトウルフからの妨害が入った

麗氷の騎士「貴様等の相手は私だッ!」

燐美の勇者を狙おうとするナイトウルフを麗氷の騎士が切り裂いてゆく
だが、麗氷の騎士だけで全てを止めることはできなかった

燐美の勇者「このぉ!って、おわっと!」

跳躍し、ボスウルフに切りかかろうとしたが
別の角度からナイトウルフの攻撃を受ける

燐美の勇者「ッ!」ダッ

バランスを崩し、あえなく攻撃を中止し
別の地点へ着地する燐美の勇者

麗氷の騎士「これでは消耗してしまう…!」

一体一体の攻撃は大したことはないが、数に物を言わせた妨害に
次第に追い込まれてゆく

燐美の勇者「これ…マズイかも…!」


数分前 洞窟の入り口


洞窟の一口近くに三頭の馬がたどり着いた

草風村人A「ここかい!?」

院生「はい、えっと…ここ間違いないはずです!」

乗っているのは草風村の村人達、そして院生だった
ペンダントを見つけた院生は、不吉な予感を払いきることができず
村人達にそれを訴え、応援を出してもらったのだ

院生「すみません、無理な事聞いてもらって…」

草風村人A「いやいいさ。それより急ごう。
       我々だけではあまり長いはできない…!」


洞窟に入り、警戒しつつ中を進んでいく

院生「これは…」

洞窟内には、ナイトウルフの亡骸がいくつも転がっていた
奥に行くほどその数は増える

草風村人B「ここで間違いないようだな…」

院生「燐美さん、麗氷さん…!」

院生は進む足を速める

院生「あそこは…」

草風村人A「奥に空間があるようだな…」

慎重に近づき、影に隠れつつその先を除く

院生「あ!」

そこでは燐美の勇者と麗氷の騎士が、
ボスウルフたちと戦っている

草風村人A「あれがボスか…なんて大きさだ…」

草風村人C「どうする!?」

草風村人B「どうするって…下手に飛び込めば私達まで巻き添えだ…」

何匹ものナイトウルフが二人へと襲い掛かり、
それをなんとか振り払っているのが見える

院生(燐美さん達、あのボスに攻撃したいのに他の個体に阻まれてるんだ!)

院生「ど、どうし…あ!」

院生はカバンの中をまさぐる

院生「これで!」

院生がとり出したのは防犯ブザー

院生「お願い、うまくいって!」

そして院生は、ピンを引き抜くと同時に
防犯ブザーを洞窟の奥へと投げ放った


燐美の勇者「ぜぇ…この、ちょこまかと…!」

燐美の勇者「次こそ…ッ!?」

ボスウルフに向って構えた燐美の勇者に、再び襲い掛かってくるナイトウルフ

燐美の勇者「ええい、くそッ!」ガキンッ

何とかそれを受け流す燐美の勇者
一方で、ボスウルフは高見の見物とばかりにその様子を眺めていた

燐美の勇者「ぐ…ッ!」


ピリリリリリリ!


燐美の勇者「え!?」

ボスウルフ「!?」

突如、けたたましい音が洞窟中に響き渡った

燐美の勇者「な、何!?」

麗氷の騎士「なんだこの音は!?」

二人はもちろんの事、ボスウルフたちもその音に動作を止める
音源である防犯ブザーが洞窟の隅に落下

ナイトウルフの群れ「「「ガルルルル!」」」ダッ

先に防犯ブザーに気がついたナイトウルフたちが、
洞窟の隅へと群がってゆく

院生「燐美さん、チャンスです!」

燐美の勇者「!」

燐美の勇者達も呆気にとられていたが、
掛けられた声によってボスウルフへと振り返る

燐美の勇者「はっ!」

そして燐美の勇者は地面を蹴って飛び上がった
ボスウルフもそれに気がつき、一拍遅れて反応する
だが、その一拍が決定打だった

燐美の勇者「でやぁぁぁぁぁ!」

ザシュッ!

ボスウルフ「グッ!?ギャォォォォォ!!!」

燐美の勇者の一閃がボスナイトウルフの喉笛を掻っ切った

燐美の勇者「ふっ!」シュタッ

燐美の勇者が床に着地する

ボスウルフ「ガゥゥゥゥ…ッ」ドッザァァ

そしてボスウルフはその巨体を地面へと倒し、
地面に血溜りを作った

麗氷の騎士「やったのか…?」

ナイトウルフの群れ「ガゥゥ…」「ギュゥゥ…!」

ボスを失ったことによりナイトウルフたちは戦意を失い
逃走する個体も現れた
洞窟中には狼一匹がやっと通れるほどの穴が複数あり
それらを通って逃げてゆく

麗氷の騎士「ッ!逃がさん!」

だが、逃げ遅れたナイトウルフは麗氷の騎士が追撃し、倒してゆく

草風村人A「こっちにも来たな!」

草風村人B「戦意喪失してる。この程度なら楽勝だ!」

燐美の勇者達が通ってきた道を使う個体もあったが
それらは草風村の村人達によって討たれていった

草風村人A「…よし、これでもう大丈夫だろう」

数分後には洞窟内に残るナイトウルフはいなくなった

院生「っと…」

院生は防犯ブザーを回収し、再びピンを付けた

燐美の勇者「院生さん!」

そこへ燐美の勇者達が駆け寄ってくる

麗氷の騎士「今の音は院生さんが…?」

院生「あ、はい。これで」

燐美の勇者「それ、何?」

院生「防犯ブザーです。町とかで危ない人とかに襲われたときに、
    助けを呼ぶための物なんですけど…」

燐美の勇者「へー」

麗氷の騎士「なんにせよ助かったよ院生さん。しかし…なぜここに?」

院生「あの…それは…」

草風村人A「この子がすごい剣幕で訴えて来たんだ。
       勇者様達が危機に陥ってるかもしれないって。
       だから、こうして来て見たのさ」

言い難そうな院生に代わり、草風村人Aが説明する

麗氷の騎士「まぁ…実際そうだったが。どうして分かったんだ?」

院生「その、これが…」

ポケットからペンダントを出した

燐美の勇者「あ、これ!」

院生「宿に忘れていったのを見つけて…
    拾った時に、何か嫌な予感がしたんです…」

麗氷の騎士「成程…」

院生「ごめんなさい!おとなしくしてるように言われてたのに…
    それに結果はどうあれ、村人さん達にまで無理を言っちゃって…」

燐美の勇者「そんな!院生さんが謝ることなんてないよぉ!」

麗氷の騎士「そうさ、院生さんや村人さん達が来てくれなかったら
       それこそどうなっていたか…」

燐美の勇者「それにね、その不吉な予感手言うのは気のせいじゃないと思うよ?」

院生「へ?」

燐美の勇者はペンダントを院生の目の前にかざし、
突いている結晶を示して見せる

燐美の勇者「このペンダントについてる結晶。星の結晶って言うんだけど、
       今回みたいに、不吉な事の前兆とか
       そういった物を伝えてくれる効果があるんだ」

院生「そうなんですか、すごい…」

燐美の勇者「うん、前にもコレに助けられた事があってね…」

麗氷の騎士「ところで…そんな大事なものを忘れていた事について、何か弁明は?」

燐美の勇者「ギクゥ!ま、まぁ、かなり気まぐれな効力なんだけどね…!
       必ずしもそれを感じとれるわけでも無いし!
       院生さんが持っててくれたおかげで助かったわけだし!?」

院生「あはは…」

草風村人A「あんた達…盛り上がってる所悪いが、そろそろ村に戻らないか?
       長居はあまり好ましくない」

燐美の勇者「っと、そうだね。はやいとこ戻ろっか」


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